―アスタキサンチンの作用メカニズムについて―


なぜ、アスタキサンチンは疲労を軽減させる?

アスタキサンチンはラットでもヒトでも、運動時に糖(グリコーゲン)よりも脂質代謝を促進させることが実証されています。脂質を優先的に利用するために、運動の後半期でもグリコーゲンは温存されていることになり、持久力維持が可能となります。

また、糖を節約することは糖代謝産物である「乳酸」の生成を抑制することになり、乳酸性アシドーシスによる疲労を軽減させるのではないかと示唆されています。

 

※乳酸はあくまでもエネルギー(糖)の代謝産物であり、乳酸が蓄積することでアシドーシスになり、疲労感とは一致することから疲労の指標とはなるなますが、疲労物質ではありません。疲労の本体は、活性酸素が筋肉細胞に障害を起こすことが原因といわれています。

アスタキサンチンの脂肪燃焼のメカニズムは?

脂肪燃焼系サプリメントに、カルニチンというアミノ酸の製品あります。カルニチンは血中の脂肪酸をミトコンドリアの細胞膜を通過させてエネルギー代謝(ATP回路)に利用させる運び屋です。

アスタキサンチンによる運動負荷時の脂質代謝作用については、運動負荷時の骨格筋において脂肪酸とカルニチンを結合させる脂肪酸酸化律速酵素CPT-Ⅰの酸化修飾をアスタキサンチンが抑えることが分かっています。(Aoi W,. et al.: Biochem Biophys Res Commun. 366, 892-7, 2008) すなわち、脂肪酸がミトコンドリアに取り込まれるために必要な酵素(CPT-Ⅰ)がサビることを抑制してくれるようです。

このことが脂肪酸代謝を促進させ、脂肪蓄積が減少し、脂肪細胞のサイズ異常やアディポサイトカイン分泌異常を改善することを示しています。

 

サルコペニア(加齢性筋減弱症)の仮説と対策

骨格筋の萎縮や加齢による細胞内での酸化ストレス亢進のメカニズムは解明されていないものの、萎縮した骨格筋では酸化生成物の蓄積がみられることが早くから指摘されているなか、酸化ストレスが筋タンパク分解を直接誘導することが証明されました。(Aoi W, Takanami Y, Kawai Y, Yhoshikawa T: Med Sci Sport Exerc 39: S313, 2007)

さらに、酸化ストレスはアポトーシス(細胞の自然死)を誘導することで筋繊維数の減少にも関わります。すなわち、不活動や加齢などによる骨格筋における酸化ストレスの持続的な亢進は、筋タンパクの分解や筋萎縮に影響するものであると考えられています。

 

アスタキサンチンは、筋タンパク分解を抑制することで筋肉量の減少に関与する(芝口翼ほか: 長期間のアスタキサンチン摂取がサルコペニアに及ぼす影響. Jpn Soc Physc Fit Sport Med 57, 541, 2008)ことから、当施設でのトレーニングの考え方として、筋肉の材料(タンパク質・アミノ酸)を補充するだけでなく、筋萎縮において酸化ストレスをいかにコントロールしていくかの戦略が必要であると考えております。

アスタキサンチンの血圧降下作用

血管を収縮する因子の一つとして、ROS(活性酸素種)の一つであるスーパーオキサイドがあげられます。アスタキサンチン投与群は非投与群と比較し、アスタキサンチンの血圧上昇抑制作用はスーパーオキサイドを補足することによる血管収縮抑制が示唆されています。(Hussein G, Goto H, Oda S, Iguchi T, Sankawa U, Matsumoto K, Watanabe H: Biol Pharm Bull. 28, 967, 2005)

 

また、レニン・アンジオテンシン変換酵素を阻害しアンジオテンシンⅡの生成を抑制することで血圧降下作用がもたらされている可能性も示唆されました。(Preuss HG, Echard B, Bagchi D, Perricone NV, Yamashita E: J Func Food. 1, 13, 2009)

 

その他、NO酸化物産生の抑制、血漿粘土低減作用、sodium nitroprusside(SNP)による血管弛緩誘導の促進、アドレナリン受容体亢進による血管収縮誘導の抑制を示唆する結果もあります。(Hussein G, Goto H, Oda S, Iguchi T, Sankawa U, Matsumoto K, Watanabe H: Biol Pharm Bull. 28, 967, 2005)

【参考文献 矢澤一良編著: アスタキサンチンの科学.成山堂書店,2009】


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